2021.1.11
現在アーティスト・イン・レジデンスの作品展示をしているのですが、実は、使用したメイン画材はブドウから作ったのです。
どうやってブドウで絵を描けるのか?を詳しく記録しておこうと思います。
ブドウで絵を描く
Photo by Ryuichiro Suzuki
ブドウ “の” 絵を描く、ではない。ブドウ “で” 絵を描く、というチャレンジをした。
エシカルにクリエイティブがしたい。と思いはじめてから、絵の具の成分やら環境への影響などを色々と調べていて、自然のもので絵を描いてみたい という気持ちが強くなっていった。
布を染める草木染めがあるのだから絵を描くことも… と、元ファッション業界の者なりにぼんやり考えていたそんなとき。
オラファー・エリアソンの展示を見たり、ANA企画のアーティスト・イン・レジデンスへの参加が決まったりで自分の中の熱量が高まり、実際に試してみることにしたのだった。
なぜブドウで?
自然のものから色を抽出する実験を自宅のキッチンでやってみよう。今回はブドウを選んだ。
その理由は、アーティスト・イン・レジデンスというANA企画の地方滞在型のアートプロジェクトに参加することになり、わたしが滞在することになったのが長野県塩尻市、ブドウ畑がたくさんあるワインの名産地だからだ。
ワインの製造を終えたあとのブドウはどうなるのか?
調べてみると、ワインを搾り切った後のブドウは廃棄されているようなので、アートがその間に介入することで何かしらよいことが起きれば、と思った。
この滞在中に赤ワイン用の濃い紫色のブドウが絞られるということで、その時に採れるものを使おう。自然のままに。
そのため今回の試みでは緑色のマスカットは対象としなかった。
まずは草木染めを参考に
“ブドウで絵を描く” というハウツーはインターネット上で見つからない。
代わりに、”草木染め” “ブドウ” と検索で調べてみると、自宅のキッチンで可能な方法がたくさん出てきた。
ブドウが布を鮮やかに染める染料になりえるなら、絵を描くインクもできそうだ。
ブドウの紫色を作っているのは「アントシアニン」という成分だそうだ。
不安要素として気になったことが2つある。
ひとつは、「天然染料は発色が弱い場合がある」ということ。
たしかに、草木染めと聞いて想像されがちなのは、いわゆるアースカラー。
くすみのある落ち着いた色、うぐいす色やからし色、紅茶のような茶色や藍色などだ。
絵を描けるだけの濃い色がうまく出るだろうか?
そしてわたしがいつも使っている色の雰囲気とマッチするだろうか?
もうひとつは、熱を加えられないことによる定着性の弱さだ。
そもそも草木染めは布を染める方法なので、お湯に布を十分に浸し、さらに煮詰めることでやっと色が染まるのだ。
紙をお鍋に入れるわけにはいかないし、参考にはできても着地点が違いすぎる。
うまくいくかどうか、不安だった。
まあ、とにかくチャレンジあるのみ。
抽出方法を選ぶにあたり設けた条件は、できるだけキッチンで使えるものを利用すること。
ブドウから絵の具をつくる方法
Photo by Ryuichiro Suzuki
実験してみた結果、成功した!
具体的には、ブドウの搾りかすを鍋で煮出して色素を抽出し、液体のままインクとして絵を描くことができた。
煮出す際にクエン酸や重曹を加えることで酸性度を調整し、色の濃淡の変化を出すことができた。
使用した材料
- ブドウの搾りかす*(メルロー、ヤマソーの2種)
- クエン酸
- 重曹
- 水*(塩尻の水道水 / 開田高原の湧き水)
今回は滞在中にその土地でその時期に取れるものを使った。クエン酸と重曹はお掃除用に市販されている粉末。
自宅のキッチンで事前実験した際、*印のものは巨峰の皮と地元茨城の水道水を利用した。
抽出作業
鍋にブドウの搾りかすを入れ、水を+1cmくらいのかさまで入れて煮る。
ブドウの分量は軽量カップで500mlくらいを目安にした。
色の変化は、煮る時間とクエン酸/重曹の量を小さじ/大さじ何杯入れるか?を変化させたりして実験した。
ブドウから作り出せた4色
実験の結果、色の変化をざっくりまとめると以下に分けられる。
今回偶然に利用できた湧き水のパターンも含めると、ブドウの搾りかすから4色作り出すことができた。
- ブドウの搾りかすのみ=紫色
- クエン酸を加える=ピンク
- 重曹を加える=茶色
- 湧き水+重曹=カーキ*
安定している紫とピンク
ブドウの搾りかすのみから出た紫色、クエン酸を加えて出たピンクについては比較的安定していて、煮出す時間を変えても大きな色の変化はみられなかった。
クエン酸の添加量による影響もほとんどみられなかった。
ブドウ種のちがいによる影響も出ることはなかった。
不安定な茶色〜カーキ
一方、重曹を加えて得られた茶色とカーキ* は変化が大きかった。
煮出し時間や重曹の添加量による色の変化が大きい分、色のバリエーションを広くみることができた。
そのため不安定さも目立った。
まずは水道水+重曹のパターンを詳しく示してみよう
上の写真のように、煮出している最中は緑色に見える。
しかし、これを紙にのせると薄まったブラックインクのようになる。(↓下の写真の3段め)
しかし、インクが乾燥すると褐色に変わっていく。
さらに日を追うごとに赤味が強くなり茶色へと変化するのだ。
↓下の写真は同じもので黒さの比較にために真っ黒なものを並べて撮影している。
この変化をみて、煮出し時間を加える重曹の量を少しづつ変化させてみたところ、煮出す時間が長く重曹の添加量が多くなる程、茶褐色は強くなることが分かった。
また、煮出し時間が短く重曹の添加量が少なくなると、うすいながらも色相の変化(緑味〜黄味、赤味)がみることができた。
とにかく重曹の色の変化は大きい。
ある時、煮出し途中の熱々の状態で紙にのせてみたところ、うすいカーキ色が現れた。(↓下の写真4段め左端)
煮出す時間が長くなるほど、赤茶味が強くなっていく。
色の変化の原因は温度変化の可能性もあり、時間が経って空気に触れる酸化、その両方とも考えられる。
なかなか複雑だけれども、おもしろい結果だった。
使う水で彩度が変わる
先に少しふれたように、偶然入手できた開田高原の湧き水のおかげで色のバリエーションはさらに広がった。
今回湧き水で試すことができたのは幸運なことで、木曽エリアに滞在中、地元の方に開田高原へ連れ出していただいたからだ。
おいしい湧き水が飲みたくて汲んだのだけど、「使ったみたらおもしろいかな?」と軽い気持ちで1回分の実験で試してみた。
色変化が大きい重曹で試したところ、通常より緑味がでた。
色の専門用語で言えば、より彩度が高いカーキをつくることができた。
先ほどの水道水+重曹を鍋から熱々状態で描いたものと比べても一目瞭然の違いだった。
しかし、この鮮やかさはキープすることができない。
液体のまま密閉したビンに保存し、時間が経ってから描いてみるとベージュへと変わっていた。
やはり生き物、インクになったとはいえナマモノだと思い知った。
水が違うことで色が変わるのは、湧き水に含まれるであろうミネラル分に反応した結果だと思う。
草木染めのやり方にもあるように、鉄や銅の含まれる液体を使って色を変化させることができる。
今回鉄や銅を含む液体を使わなかったのは、設定した条件「できるだけキッチンで使えるものを利用すること」があるためだ。
これはいろんな見解があると思う。
けれど、わたしはこの溶液を排水することがふと気になり、下調べができていなかったので今回は使わないことにした。
ブドウで絵を描く。まとめ
実験した結果をまとめると…
ブドウから色を抽出し、絵を描くことはできる。
実験内容のハイライト
- やり方:草木染めを参考に鍋で煮出して色を抽出
- クエン酸や重曹を加えることで酸性度を調整し、色の変化を出せる
- 水のミネラル分で色の彩度が変わる
- 温度変化、空気に触れる酸化による変化を含めると、色の可能性はさらに広がる
こうして都度楽しみながら実験した結果、無事にブドウからインクを作ることができた。
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